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奇跡あるいは記憶の書き換えについて

だれだって、一生に一度くらいは奇跡を体験する。そしてたいていの場合それは幼少期に起こる。それが小沢草太の27才にして出した結論だった。
 草太の場合、奇跡が起こったのは小学校三年生の七月、明日から夏休みが始まるという、この世で一番幸せな金曜日の昼間だった。誰もが夏休み気分に浮かれて帰った小学校の校庭で、草太だけは母親がPTAの関係の用事だとかで、一人で残っていた。
 一人だからといって、決して寂しかったわけではない。むしろ草太の場合は友達とずっと一緒にいると、それはそれで特に理由もなく気が重たくなってしまうような子どもだったため、むしろ一人っきりの校庭と午後の時間を満喫していたと言える。だからだったのだろう。ふと、年上の従兄弟が言っていた、ブランコの技に挑戦してみようと思い立った。
 その年は例年以上に暑い夏だった。ブランコの鎖は熱を帯びており、持つのに苦労した。ぎゅっと握ってから、しばらく我慢をしなければならなかった。そうして、なんとかブランコに乗ると、立ち漕ぎで勢いをつけるべく膝を何度も何度も折り曲げた。ぐっと踏みこむ度に加速がついていく。突風が頬に心地よく、足下を見るとものすごいスピードで地面がスライドしていた。
 校庭の向こうには陽炎。ゆらりとゆれるサッカーゴール。その向こうにはジャングルジム。それを飛び越さんとばかりに屈伸を続け、体を上下に揺らした。
 従兄弟はその前の年、確かに言った。自分は勢いをつけて限界までブランコを漕いで、一回転までした事があると。ぐんと加速をつけた時、そのままするっと空に向かって自分は飛んでいったのだと。そしたらまるで逆上がりするみたいに景色がぐるんと廻り、ブランコを支える鉄柱を下に見下ろして、気がついたら元の場所に戻っていたのだと。ただ、それは正確に言うと、元の場所よりも数センチ高い位置だったのだと。何故かと言うと、ブランコが一回転して、鎖が鉄柱に巻き上がった状態になったかららしい。
 それを成し遂げた従兄弟は、それからは勇気ある者として、すっかり学校中の人気者になったと聞いた。
 草太は、特に学校の人気者になりたいわけではなかった。どちらかと言うと目立たず、平凡に卒業まで過ごしたいと思っていた。しかしそういった副次的な効果は別として、ブランコの一回転にはあこがれた。空をぐるんと廻してみたかった。
 ブランコの勢いは最高潮に達していた。下に目をやると、すごいスピードで大きく地面が揺れている。前後する体とブランコ。飛び去っていく景色。
後方に体が行った時はそのままとびあがるみたいにふわりと背中を丸め、膝から下をより後ろまで引っ張った。前方に体が行くときは出来るだけ背中をそり、足を上に上げる。自分がブランコと一つになったような気分で、最小限の動きで最大限に加速していった。
 足が頭よりも上に上がるようになり、草太の心臓もいよいよばくばく言っていた。ブランコが前に出るタイミングで、カウントダウンを始める。5,4,3,2,1・・・0で足をさらに上に突き上げた。逆上がりの要領でからだを上に投げ出す。次の瞬間、ふわりと空が揺れ、落ちていった。自分の頭上に地面が見えた。そして、ブランコの支柱を見下ろした。奇跡の瞬間。
その時の景色を草太は今でもはっきりと覚えている。まるでその時、心のシャッターを切ったように鮮明すぎるくらい鮮明にそれを覚えていた。初恋の女の子の顔や、初めてつきあった女の子の胸の形などをすっかり忘れてしまった27才の草太だが、その記憶だけは確かだった。
 だから、数年後、大学の講義でブランコで一回転する事は物理的に不可能だと聞いた時は、思わず声をあげてしまった。講義の後、教授にたてついてもみた。だが、結論は、どう考えても教授の方が正しいとしか言えなかった。なまじ成績が悪くはなかったのが災いした。教授にこんこんと丁寧に説明された結果、早々に草太自身が、それはあり得ないと納得してしまったのである。また、後年、従兄弟は嘘つきで、学校では虐められていた事も判明し、いよいよ草太は、あれは奇跡だったのだと納得するしかなくなった。
 勿論、その後、何度も挑戦はしてみた。しかし一度も成功しなかった。それどころか、どんな風に自分がそれを成し遂げたのか、皆目見当がつかなかった。そして、どうがんばってもブランコで一回転はできないと結論を出した。
今でも、たまに、落ち込んだりするとブランコに乗る。すると、あの時の記憶が鮮明に蘇る。その記憶は、何とも言えず草太を満たす。あんな事が物理的にはあり得ないとしった今だからこそ、あんな奇跡を味わえた自分は本当に幸せだと思う。そして、他の人達はそんな奇跡を忘れているだけなのではないかとちょっぴり思っていたりもする。するのだが、嘘つきに呼ばわりはされたくないので、最近は誰にも言っていないのだった。

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